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『シグルスとグットルムについて』 アサイラム過去編一人目 後編


「シグルス、明日、兄さんに会いに行ってもいいかい。君の爵位継承の前夜祭までには帰ってくるよ」

「いいけど…なんで?」

「兄さんに、グンナルに、最後のお別れをしようと思ってね」

「だから、さっきから言ってるだろう!僕はこの卑劣な件からは降りると!」

「何をしに帰ってきたかと思えば、この愚弟め」

翌日、私は実家に帰り、グンナルに今までの鬱憤を全てぶちまけた。一族再興の為とはいえ、平気でなしてきた数々の悪行、そして今度は、その悪行に弟の私まで加担させようとしていることへの怒りを。だがそれも兄さんの一言で制されてしまった。

「グットルム、いいか!理想では母さんは救えない!お前が、その甘っちょろい考えで、のほほんとヴォルスング家の館で過ごしている間にも、母さんやギューキ家のものは、どう過ごしていると思っているんだ?賢いお前なら、そんなことぐらい容易く想像できるだろう!」

「う、……」

母さん、それに弟たち、私の大切な人たち。それら全ては理想では救えない、この一言に私の心は激しく揺れ動いた。

「シグルスを……彼を裏切りたくない……」

「ならバレないように盗めばいい。ギューキ家が再興して、お前が十分な資金と共に一人立ちする時にでも、没落するだろうシグルスの面倒を見てやるなり、なんなり好きにすればいい。なあ、グットルム……母さんや弟たちを救えるのは、お前だけなんだよ。こんなこと言いたくないが、……いよいよ本当に母さんの容体が悪くなってきているんだ」

「母さんが……!?」

優しい母さん。父さんがヴォルスング家との権力争いに負け、そのまま衰弱死してからというもの、女手一つで私たちを育ててくれた母さんは、最近、病院で寝たきりの状態だった。……どうやら私に選択肢は残されていないようだ。

シグルスが爵位継承を行う前夜祭、おそらく今夜が最初で最後にして絶好の機会になるだろう。

「心温かい紳士淑女の皆様 、このような幸せな夜を皆様と過ごせることを、心から—」

(よし、今なら忍び込める……!)

(シグルス、君には一生をかけて謝罪するし、僕が君の面倒を見ていくよ。許してくれ、これも母と弟たちの為……)

(さっき盗み出した鍵で……よし、開いた!)

(僕が入ってくる時、いつもシグルスは、この机で何かをしていた……)

(たしか、この引き出しを……あった!後はこれを……)

「父様には、ブリュンヒルデはグンナルと婚約しているギューキ家の女だから手出しはするなと言われたよ……」

「シグルス……!これは、その」 (いや、ブリュンヒルデが兄さんと婚約していた?そんな……)

「革命が起きた夜も、こんな風に外だけ騒がしかったっけ」

「本当はね、父様が、アイツが、手を放したんだ……」

「え……」

「ブリュンヒルデを捕まえていた僕の手を無理やり放させたと、言った方が良いかな。あの時は、他のものを助けにやるから大丈夫だのなんだのと混乱の中で、強引に船に乗せられてね……」

「船の上で、彼女の訃報を聞いた時に、アイツの嘘が分かって、後悔してもしきれなくて、すぐに死のうとしたけど、色々と邪魔されて死ねなかったよ」

「……」

「……感じたことのない怒りって言うのかな、憎しみ?とにかく僕が激しく問い詰めた時、アイツ、なんて言ったと思う?」

「ギューキ家の売女なんて、あそこで始末できて良かった、むしろ立派な親として感謝されるべきだ!ってさ」

「っそんな!」

「そう、酷いだろう?だから僕は……」

アイツが死んだ日覚えてるだろ?あの晩に、僕はアイツに図書室に呼び出されていたんだ。

「この痴れ者が!あのギューキの若造を手玉に取っているかと思えば、貴様こそ、すっかり心を許しおって!」

「ギューキ家との確執は、僕の問題じゃない、そもそも元はと言えば父様がギューキ家にあんなことしなければ」

「うるさい!お前のその甘ったるい思考には、いつも吐き気を覚えさせられる、かつてのヴォルスング家のご令嬢、あの平和ボケした、お前のバカな母親のようにな!!」

「とうさま、いまなんて……」

「なんだ?あのバカ女のようにナヨナヨとした思考はいらんと言ったんだ。フン、まあ良い、またあのギューキ家の売女のように、あの男も…」

「そう……、また、僕の手を放させようとするんだね」

「なにか言ったか」

「僕もう成人してるんだよね」

「だからどうした、お前は私なしでは何も」

「本当に何もわかってないな、お前を絞め殺すぐらいの力はあるって言ってるんだよ」

「……涙の一つぐらい出ると思ったけど、何も感じないな」

(もう誰にも邪魔させない。これは僕の手だ、僕の手……、二度と放したりするものか……!!)

君が死体を見つけたあと、部屋に引きこもったフリをして、警察に死因を偽証するように掛け合っていたんだ。周りの目を誤魔化す為にショックで失踪する演技もしたけど、君が僕を探しに来てくれた時は本当に嬉しかったなあ。

本当だよ?絶対に、これは離さないって 、ブリュンヒルデとは、また違う、もっと深い、本当の愛情っていうのかな。

「そんな、まさか君が、ああ、なんて恐ろしいことを!」

「君も同じ気持ちだったんだろ、あの時は、〈権利書〉よりも〈僕〉を優先して探しに来てくれた」

「……!」

「シグルス……落ち着いてくれ、僕は」

「僕はいつでも冷静だよ、グットルム」

「ただ抱きしめていたいんだよ、愛する人を」

「シグ、ルス」

「大丈夫だよ、グットルム。もう、永遠に離さないから……」

〈深窓の貴公子〉は人嫌いというお噂がありましたけど、それどころか、とても素敵な方ですわね」

「ああ、同感ですな。しかし、あの容姿、とても同じ男だとは思えませんよ」

「あの方が女性でしたら、今ごろ社交界は大荒れでしょうな」

「ハハ、確かに」

「シグルス様も言うまでもありませんが、あのギューキ家の青年もなかなか……」

「あれ、そういえば、公爵様と、そのギューキ家の方は」

ドサ

「あら、何の音?」

「きゃあー!血、血が……!!」

「なんだアレは!?」

「なんてむごたらしい、誰か早く…」

「まって、この人が落ちてきたところって……」

「君は僕に生きる希望を与えてくれた。本当の愛も、……グットルム、これで永遠に一緒だね

「というわけで、僕と彼は永遠に結ばれているんだよ、何も問題ないだろう?」

「……分かりました。どうも、過去のことを話してくれてありがとう、ヴォルスングさん、おい、次の患者を。ヴォルスングさんは合格だ」

(彼は少し、いや、かなりの妄執症、偏執症か。次の患者も無事に話してくれるといいが……)

〈あとがき〉

アサイラム過去編どうでしたでしょうか。中の人の妄想爆発の勢いで書いてしまいましたので、もう滅茶苦茶で読者の方に伝えたいことが伝わってないのではと、恐ろしくて震えていますw

1人目はアサイラムの浮気センサー搭載ヤンデレ(嫉妬深い)シムことシグルス坊ちゃんにやってもらいました。婚約者であり、たった一人の理解者だったブリュンヒルデを亡くした時点で、あちら側の世界に行きそうになっていたシグルス。

哀れにも、そんな覚醒しかけのシグルスの最初の犠牲者となってしまったグットルム。グットルムは良くも悪くも真面目で優しい普通の人、というイメージで作りました。ちなみに彼の兄グンナルとブリュンヒルデは本当に婚約していて、グンナルは母親や弟たちのことはどうでもよく、自分の婚約者を奪ったシグルスに、ただ復讐したいだけでグットルムを送り込んだ感じです。(ほぼ北欧、ドイツ神話まんまですね……)

この本編のほかにも、「シグルスとグットルムは既に幼少期に出会ってたり出会ってなかったり」、「権利書を盗み出し金持ち貴族になったグットルムが没落したシグルスを囲ってる」if話など妄想したり、してなかったり……。グットルムがシグルスを囲ってるif話は、その内R-18ページに載せるかもしれません。それでは、ここまで読んで頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました!(/・ω・)/

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